奨学金の中でも、貸与型の奨学金は借金であることから債務整理の対象とすることができます。
ただし、奨学金が低利息であること、また返済も少額・長期にわたることから、債務整理をして利息のカットをしてもらう場合、総返済額を減らす効果が少ないため、メリットは大きくないことも考えられます。
奨学金の支払いが困難になった場合、多くの方が利用されている奨学金である日本学生支援機構の貸与型奨学金には救済制度もあります。
そこで、次にご紹介する救済制度の活用も考えた方がよいでしょう。
奨学金の返済が苦しい場合の救済手段
奨学金の返済が苦しい場合には、①他の借金はないケース、と、②他の借金があるケースと、があります。
①の場合、債務整理(借金整理)を考える前に、奨学金で用意している救済手段の活用を考えるほうが効果的です。
特に、日本学生支援機構の貸与型の奨学金の場合、減額返済制度・返済期限猶予制度があり、これらの制度は経済的に困難になってしまう事態を広くカバーしていますので、使える可能性が高いものです。
借金の整理を考える前に、これらの救済制度の利用をぜひ検討してみましょう。
減額返済制度
日本学生支援機構が用意している「減額返済制度」を利用すると、一定の期間、返済が困難になった人が返済額を減額することができます。減額は、月々の返済額を2分の1~3分の1とするものです。
日本学生支援機構のホームページによると、「災害、傷病、その他経済的理由により奨学金の返還が困難な方の中で、当初約束した割賦金を減額すれば返還可能である方を対象としています」としています。給与所得の方の場合、所得証明書等の年間収入金額325万円以下を目安にして減額が認められます。
最高15年にわたり、減額返済を認めるとされており、経済的に苦しい間は月々の返済額を減らすことができます。
減額返済を申込むためは、奨学金減額返還願(必須書類)、マイナンバー、返済が困難になった事情を説明する書面、収入の証明などを用意して日本学生支援機構に提出します。
返済期限猶予制度
減額制度によっても、支払が困難な場合には、返済期限を猶予することが認められます。
日本学生支援機構のホームページにも、
「災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合は、返還期限の猶予を願い出ることができます。そのような状態になった場合は、延滞する前にすみやかに手続きをおこなってください。」
との案内があります。
最高で通算10年(120か月)の返済期限の猶予を受けることができますが、災害・傷病・生活保護受給中などの場合は、10年の制限はありません。
返済期限の猶予の申し込みも、奨学金返還期限猶予願(必須書類)、マイナンバー、返済が困難になった事情を説明する書面、収入の証明などを用意して日本学生支援機構に提出します。
所得連動返還型無利子奨学制度
日本学生支援機構の奨学金には、第一種(無利子)と第二種(有利子)がありますが、「所得連動返還型無利子奨学金」は、このうち第一種奨学金を利用する一部の利用者に対して適用される奨学金です。
利用者が申請をすることで、卒業後に一定額の収入を得られるようになるまで、返還期限を猶予してもらうことができます。
また、日本学生支援機構に毎年申請をして承認を得られれば、返還期限の制限なく返還が猶予されます。
返還が猶予される所得は、下記の通りです。
・会社員等 給与所得300万円以下
・自営業等 収入から必要経費(控除分)を差し引いた金額が200万円以下
奨学金の返済が滞るとどうなる?
奨学金が支払えなくなり延滞するようになると、一般的には次のような流れで督促や法的措置が進められていきます。
まず、奨学金を支払っていないと、「早く支払うように」という督促の連絡が、電話やSMS、郵送などで入り始めます。
延滞して3か月経つと、信用情報を管理する機関に、延滞の情報(事故情報)が登録されます。日本学生支援機構の場合、KSC(全国銀行個人信用情報センター)に登録されます。
延滞が4か月を超えると、委託を受けた債権回収業者(サービサー)からの請求が始まります。
また、奨学金を借りる際、個人の保証か保証機関による保証かの、どちらかを選択すると思います。延滞が9か月以上になると、個人の保証人(ご両親や親族など)に予告文書が送付され、裁判所に支払い督促の申立がなされます。
保証人が、債権者からの督促や、裁判所からの通知を受け取るのはこの頃です。
機関保証の場合は、代位弁済が行われた後一括請求を求められ、応じなければ法的措置がとられます。
奨学金の債務整理(借金整理)の方法
奨学金と他の借金も返済が苦しいときには借金を整理して返済額を減らすことを検討しましょう。
債務整理(借金整理)とは、借金を減額する手続きです。
手続きには次の3種類のものがあります。
- 任意整理
- 民事再生(個人再生)
- 自己破産
それぞれの手続きにメリット・デメリットがあるので、適切な方法を選ぶことが必要です。
なお、どの方法をとっても、信用情報に事故情報の登録が行われ(いわゆるブラックリスト入り)、新規のお借り入れやクレジットカードの利用ができなくなることは共通のデメリットです。
任意整理
任意整理は、金融機関との個別の借金の減額交渉で借金の額を減らす債務整理(借金整理)手続きです。
将来の利息と、遅延損害金を減額し、総返済額を減らすことができます。
また、返済期間を延長してもらうことにより、月々の返済額を減らします。
裁判所で行うものではないため柔軟に進められ、おおむね6か月~9か月と比較的に短期間で手続きを完了できることが特徴です。
その後、返済を3〜5年で完了させます。
メリットは、金融機関との交渉により、短期間で完了させることができるため、比較的に手続きが簡易なことです。
デメリットは、低利息の奨学金の場合、任意整理の対象とすると利息のカットの効果が少ないことがあげられます。
民事再生(個人再生)
個人再生(民事再生)は、裁判所で行い、原則としてすべての借金について借金の減額をする債務整理(借金整理)手続きです。
民事再生法による手続きで、中でも個人向けの手続きを「個人再生」といいます。借金の額は最高で10分の1まで減額することができます。
借金をどのように返済するかは「再生計画」で決め、裁判所の認可を受けた後、3年~5年の間返済を続けます。
メリットは、家を手放さずに、債務整理を行うことも可能であることです。
さらに、任意整理よりも大幅に債権をカットできます。
デメリットは、原則としてすべての借金を対象にして整理するので、ローン中の車を手元に残すことが難しいこと、裁判所でする手続きなので、複雑で時間がかかることなどがあげられます。
奨学金と他の借金とがあり、借金が比較的に多くあり、任意整理の手続きでは返済が難しい場合に、この手続きを検討する必要があります。
自己破産
自己破産はすべての借金の支払いを免除してもらう債務整理(借金整理)の手続きです。
住宅も含め借金をした人の財産を原則全部お金にかえて債権者に配当しますので、借金をした人の生活には大きな影響が出ます。
自己破産のうち、借金をした人の財産が足りず配当ができない場合は「同時廃止」、配当ができる場合は「管財」の手続きを行い、財産を債権者に配当します。借金の免除は、免責を別に申し立てる必要があります。
免責が裁判所から許可されると、借金の支払いを免除することができます。
メリットは、借金の支払いを免除(実質借金が0)にまですることが可能であることです。
これに対してデメリットは借金をした人のすべての財産を対象として、換価・配当を行うことになるので、大きく生活に影響が出ることがあげられます。
奨学金のほかに借金があり、個人再生により返済をおこなうことが困難な場合は自己破産の検討をすることとなります。
しかし、自己破産は生活への影響も大きいことから、借金の整理を専門に行う司法書士・弁護士の事務所に相談し、借金問題は早めに解決することが望ましいです。
奨学金を債務整理するリスク
奨学金を債務整理する場合、同時にリスクもあります。
具体的に、どんなことが起こる可能性があるのかを知っておきましょう。
保証人や連帯保証人の家族や親戚に知られてしまう
奨学金を申し込む際に、家族や親戚が保証人になっている場合、債務整理をすると保証人・連帯保証人に請求がいきます。
そして、今後は保証人が支払いを継続していくことになります。
このように、誰にも知られず奨学金を債務整理しようとしても、連帯保証人や保証人になっている親などに請求が届くため、内緒で手続きはできません。
保証人がついた奨学金を債務整理する場合は、事前に保証人に伝えておく方が後々トラブルになりにくいでしょう。
ブラックリストに載る可能性がある
債務整理するとブラックリストに載ることは、一般的にも知られています。
当然、奨学金を債務整理する場合も、ブラックリストに載るリスクがあります。
ブラックリストに載るというのは、信用情報の管理機関に事故情報が登録されることを意味します。
奨学金の場合も、3か月以上延滞するとブラックリストに登録されてしまいます。
ブラックリストに登録されると、クレジットカードやローンの利用、他にも携帯電話本体の分割払い契約などができなくなります。
債務整理をしても子どもの奨学金の保証人になれる?
お子さんの奨学金の保証人をこれから引き受ける予定のある方が、債務整理(借金整理)をすると、保証人になれるかどうかは気になる問題の1つです。
日本学生支援機構の奨学金の場合、申込みの時に記載した保証人に関しては信用情報を参照します。借金の整理に関する情報は、信用情報に登録されることから、整理をした人が保証人となることは難しいのです。
しかし、奨学金を借りる際に、常に保証人が必要かというと、そうではありません。
「機関保証」を使うと、保証人は不要
日本学生支援機構の貸与型奨学金には、「機関保証」を使うことができます。機関保証は、保証会社が借金の保証をするので、保証人は不要です。
保証人を立てる代わりに、保証会社に手数料として月々の貸与額の2~6%の保証料を支払うと、機関保証を受けることができます。
手数料は貸与額から差し引かれ、残額が学生に支給されるのです。
保証人は不要とすることができるので、「保証人になることができないから借金の整理をしない方がよいのではないか」などとためらわないようにしましょう。
借金問題は、早めに解決をしたほうが賢明です。
奨学金の救済制度と借金の整理で早めに返済困難の解決を
奨学金の返済が困難になった場合、借金が奨学金だけなら、月々の返還額を少なくする(減額返還制度)、返還を待ってもらう(返還期限猶予)など、奨学金の救済制度が利用できないか検討してみましょう。
しかし、借金が奨学金だけではない場合は、債務整理を行うと奨学金以外の借金問題も同時に解決することができます。
債務整理について熟知している司法書士や弁護士に相談すると、ご自身の状況にあわせた解決方法をアドバイスしてくれます。
どの方法で借金を整理するのが適切か、今後の返済についての計画など、心配なことはなんでも相談できます。
大切なのは、債務整理の実績が豊富で、借金問題を熟知している事務所に相談することです。
借金返済に悩んだら専門家に相談を
借金の返済に悩まれたときは、借金の専門家の力を借りるのが早期解決の近道です。
中央事務所では、債務整理の知識と実績が豊富な専門家が、あなたのお悩みをしっかりとお聞きします。
ご相談時にお話しをよく伺った上で、あなたの状況にあった解決方法をご提案させていただきます。
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本記事の監修/司法書士法人 中央事務所 司法書士 伊藤 竜郎
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投稿日: 2024年6月6日
更新日: 2024年12月9日