過払い金の時効とは
過払い金は、「利息制限法で定める上限金利を超えて支払った利息」のことで、本来支払う必要がなかったにもかかわらず、金融機関からの請求によって支払ったお金です。しかし、そんなお金を取り戻すための過払い金の請求にも時効があります。
過払い金が発生していたことがわかっても、時効を迎えてしまうと請求ができなくなってしまうため注意が必要です。
過払い金の時効が成立する条件は、下記の2つです。
- 借金を完済してから10年
- 過払い金を請求できる権利があると知ってから5年
基本的には、最後に取り引きした日から10年が経過すると時効を迎えます。
この最後の取引日とは、完済した日です。「取引が始まった日」ではないことに注意しましょう。
過払い金の時効は「完済した日から10年」
過払い金が発生していた場合、過払い金を請求する権利は、最後に取引した日から10年を経過すると時効を迎えてしまいます。
「最後の取引」は、通常であれば完済日となることが一般的です。ただし、返済を途中で放置している場合は、最後に返済した日となります。
時効が5年となるケース
2017年5月26日に改正民法が成立し、6月2日に公布、2020年4月1日に施行されました。
この改正民法では消滅時効の規定が変わり、「最後の取引から10年」という条件以外に「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」という条件が追加されました。
改正民法施行前(2020年4月1日よりも前)に完済した借金に関する過払い金については「最後の返済日から10年」という従来の消滅時効が適用されますが、改正民法施行後(2020年4月1日よりも後)に完済した借金に対して発生した過払い金は「権利を行使することができることを知った時から5年」が該当することがあります。
法務省の消滅時効に関する解説資料でも解説していますので、詳細を知りたい方は参照して下さい。(http://www.moj.go.jp/content/001255623.pdf)
民法改正は過払い金請求の時効に影響する?
以前は、過払い金を請求することができる権利があることを知っているか知らないかに関係なく、完済から10年で時効とされてきました。しかし、2020年4月1日に行われた民法改正によって、さらに新たな消滅時効の期間が追加されました。
権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかるという条件も、新たに加えられたのです。
つまり、民法改正によって過払い金請求の消滅時効期間は、下記の2通りになりました。
- 過払い金を請求することができる権利を行使できるようになったときから10年
- 過払い金を請求することができる権利があると知ってから5年
民法改正後は、時効期間が10年のケースと5年のケースとが発生することになったのです。
過払い金の時効後は何もできない?
過払い金が発生していることが判明しても、基本的には時効が成立すればお金を取り戻すことはできません。しかし、時効後であっても同じ金融機関からお借り入れがある場合、過払い金と借金の相殺を主張できるケースがあります。
同じ金融機関で、お借り入れと完済を繰り返しているような場合に、「過払い金を次のお借り入れに充当できないときには相殺する」と主張することで、過払い金を現在の借金に充当して借金を減らすことができるケースがあるということです。
ただし、この解釈については裁判所の判断次第というところがあります。
時効について知ることで過払い金請求が有利に
過払い金請求の時効について知っていると、過払い金の請求を有利に進められる可能性があります。
時効の前に過払い金を取り戻せる場合や、請求金額自体を大きくできる可能性もあるため、時効について知ることは大切です。
過払い金の請求時効の起算点については、思い違いをされているケースもあります。お借り入れをしていたのは10年よりもずっと昔だからとおっしゃる方がいらっしゃいますが、完済日から10年または過払い金があることを知ったときから5年です。
10年以上前に完済した借金でも、過払い金を請求できることも
同じ金融機関から複数回お借り入れをしていた場合に当てはまる可能性がある条件です。
10年より前に完済した取引と、完済から10年を経過していない取引が「一連の取引」とみなされる可能性があります。
つまり、時効が到来していない取引と「一連の取引」であることが認められれば、完済から10年超を経過した取引についても時効が到来していないため、過払い金が請求できる可能性が生まれます。
複数の取引を一連の取引として計算できることも
過払い金を請求する場合、過払い金の金額は請求する側が計算する必要があります。
同じ金融機関からの複数回お金を借りており、それぞれに過払い金が発生していた場合、取引全体で見たときに過払い金の金額の計算方法は二つあります。
- 「一連計算」では、前の取引での過払い金が、後の取引の返済に充当される
- 「個別計算」では、前の取引での過払い金が、後の取引の返済に充当されない
一連計算で計算した場合は、個別計算に比べて過払い金の金額が大きくなる傾向があります。
過払い金の返還交渉を有利に進めるなら
より多くの過払い金を取り戻すには、金融機関との交渉を有利に進める必要があります。
時効や複数回の取引においては、以下のような点を金融機関に認めさせるのが重要です。
- 時効や複数回の取引においては、以下のような点を金融機関に認めさせるのが重要です。
- 同じ金融機関から複数回お金を借りており、過払い金が発生している場合は、過払い金の金額は「一連計算」で計算した金額であること
金融機関は、自身が不利になるかもしれない項目については徹底的に反論してきます。
法律の専門家でなく交渉の経験が少ないと、過払い金の請求を成功させるハードルは高いと言わざるをえません。
過払い金は自身で請求することもできますが、専門家の力を借りるのがおすすめです。
時効における「一連」と「分断」とは
同じ貸金業者から一度お金を借り、完済し、またお金を借り始めたという場合、よく争われるのが「一連」か「分断」という問題です。
一つの貸金業者から2回借入をした場合に、先の取引を「取引①」、後の取引を「取引②」とします。
この場合、取引としては二つの見方ができます。
- ・「一連」・・・取引①と取引②を一つの取引とみなすこと
- ・「分断」・・・取引①と取引②を切り離して2つの取引と考えること
「一連」と認められると、過払い金の金額が大きくなる可能性があります。
時効が伸びる可能性
取引①の完済から10年超経過しており、取引②は完済してない(または完済から10年以内)で同じ金額を借りた場合で考えてみます。
「分断」と判断されると、それぞれの取引について時効が発生します。
取引①は完済から10年が経過しているため、時効が成立してしまうので、過払い金を請求できるのは取引②だけです。
「一連」と判断される場合、取引①と②はまとめて一つの取引と見なされます。取引①だけを切り分けて「時効が成立する」とは言えなくなり、取引①で払った過払い金も請求できるようになります。
前の取引の過払い金が後の取引の返済に充当されたとみなせる可能性
取引①で支払った過払い金を、取引②の返済に充当できる場合、過払い金の金額はより大きくなる可能性があります。
例えば、1回だけ180万円を金利29.2%で借りて、毎月5万円を返済する場合を考えてみます。(以下、過払い金への利息を除いた計算です。)
- 返済回数は約90回、返済総額は約430万円
- 利息制限法上の上限金利は15%なので、過払い金の金額は約190万円
となります。
では、同じ取引を2回した場合を考えてみましょう。
「充当する」場合と「充当しない」場合で金額はどのように変わるでしょうか。
「充当されない」場合
「充当しない」場合は、過払い金の金額が2倍になるだけです。
過払い金の金額は、合計で次の金額になります。
約190万円 × 2 = 380万円
「充当される」場合
一方、1回目の取引の過払い金を、2回目の取引の返済に「充当する」場合の過払い金の金額を計算してみましょう。
1回目の取引での過払い金は約190万円。
2回目の取引で180万円をお借り入れしても、1回目の取引で発生する過払い金約190万円が返済に充当されると、すでに完済できていることになります。(180万円 - 約190万円 = 約10万円の過払い金が返済されてない状態になる)
にもかかわらず、2回目の取引の返済のために約430万円を金融機関に支払うと、2回目の取引に対する返済はすべて過払い金になります。
2回目の取引に対する返済はすべて過払い金です。
その結果、過払い金の金額は、約10万円 + 約430万円 = 約440万円となります。
充当しない場合に比べて過払い金の金額が約60万円も大きくなります。
複数回の取引が「一連」とみなされる条件
同一貸金業者からの複数回の借入が、「一連」とみなされるかどうかは、それぞれの借入状況によって変わってきます。
簡単に「一連」とみなされるような項目から、一つでは認められないような細かい項目までさまざまです。
基本契約が一つの場合は、一連の取引とみなされやすい
借入をするときに、毎回契約を結ぶのではなく、包括的な契約(基本契約)を結ぶ場合があります。
基本契約が一つで、複数回借り入れた場合、どの取引に返済するかを個別に指定して返済することはありません。このような場合は、一つの取引とみなされる可能性が高くなります。
ただし、後で説明する通り、途中で借金をしていない空白期間が長いと、一つの取引とはみなされない場合があります。
基本契約が複数ある場合
借入の根拠となる契約が複数ある場合は、「一つの取引」とみなされるための条件がより厳しくなります。
平成20年1月18日の最高裁での判決によれば、一つの取引かどうかはこのような条件を考慮して判断することになります。
- 先の取引の返済期間
- 先の取引で、契約書が返還されたか
- 先の取引の最後の返済から、次の取引の貸付までの期間の長さ
- 先の取引の最後の返済から、次の取引の貸付までの期間に、貸主・借主で接触があったか
- 後の取引の基本契約が結ばれた経緯
- 先の取引と後の取引の条件の違い
「一連」と「分断」が過払い金請求の争点となる事例
過払い金の請求で「一連」と「分断」が争点となるのは、主に以下の2つの場合です。
- 消費者金融から借り入れをした場合
- クレジットカードのキャッシングを利用している場合
消費者金融からお借り入れした
消費者金融から借り入れをした場合、完済してから次の借り入れまでの期間が「365日」以内であれば一連と判断される可能性が高くなる傾向があります。
ただし、各取引の内容・条件・経緯によっては、空白期間が1年以内でも分断となる場合もあります。
例えば、第一取引後の契約書の返還、第二取引時のカードの再発行、利率の変更などがあったときは「一連」と認められにくくなります。
クレジットカードのキャッシングを利用した
クレジットカードのキャッシングの場合では、複数回の取引があっても、一連として判断される余地があります。
クレジットカードのキャッシングでは、基本契約の元に年会費を継続して支払っており、同じカードを使ってお金を借りることが一般的です。
最高裁の判例では、例え基本契約がない場合でも一つの貸金業者から継続的に貸付される場合は、取引間で債務が当然に充当されるという見解が述べられており(最高裁判所第三小法廷平成19年2月13日)、基本契約があればなおさら一連の取引として認められやすいと言えます。
ただし、取引が一連か分断かは、個別の取引の事情を考慮して判断されますので、専門家に相談することがおすすめです。
過払い金請求の時効の影響を小さくできる3つのケース
過払い金の時効が迫っている方なら、過払い金請求期間中に時効を迎えてしまう可能性もあります。
時効を迎えると過払い金の請求自体ができなくなります。
そのような事態を防ぐために、過払い金請求の時効の影響を小さくできる可能性があるケースをご紹介します。
ケース1:裁判外の請求(催告)をする場合
裁判外の請求(催告)とは、貸金業者に内容証明郵便で過払い金の請求書を送ることで、その後6か月間は、時効の完成が猶予されます。
催告後、6か月以内に、裁判所に訴訟を提起する(裁判上の請求をする)必要があります。
時効までの残り時間が少ない場合は、取引履歴開示請求時に同時に過払い金を請求することで、いったん時効の進行を止めることができます。
なお、詳細な情報は、法務省の消滅時効に関する資料でも解説されていますので、詳しく知りたい方は参照してください。
(http://www.moj.go.jp/content/001255623.pdf「③時効の中断・停止の見直し」)
ケース2:裁判上の請求をする場合
「裁判上の請求」とは、裁判所を通して過払い金を請求することです。
過払い金に関しては、裁判上の請求には「訴訟の提起」「支払督促の申立て」などがあり、裁判所が受理した時点で時効が止まります。
訴訟の提起
訴訟の提起とは過払い金請求の訴訟を起こすことで、時効の中断方法として一般的な方法です。
- 訴状(訴えの内容を記載)
- 証拠の説明書
- 取引履歴
- 引き直し計算書
- 貸金業者の代表者事項請求書
書類に不備があると裁判所に受理されず、時効も中断しないため、時効が迫っている状況では専門家に依頼することが得策ですが、裁判所の係の方に教えていただきながら、ご自身で書類を作ることは可能です。
支払督促の申立て
支払督促の申立てとは、裁判所から貸金業者へ過払い金の支払い命令である督促状を出してもらい、過払い金を取り立てることのできる手続きです。
貸金業者から異議申し立てがあれば、その後は訴訟手続きに入ります。
裁判費用などは別途必要になります。
ケース3:貸金業者の取り立て方法に不法行為があった場合
完済から10年超を経過しており、過払い金への請求権が時効を迎えていても、貸金業者の取り立てに不法行為があった場合、損害賠償金として過払い金の一部を取り戻せる可能性があります。
不法行為による損害賠償の請求権の時効は、「損害及び加害者を知ってから3年」( 民法724条 )となります。
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。
不法行為にあたるかどうかは、以下のような事実の有無などを考慮に入れて判断されます。
- 法的な根拠がないことを知っているにも関わらず請求する
- 暴行や脅迫、嫌がらせによる取り立て行為
- 1日に何回も電話をして催促する
など
過払い金の請求を成功させるコツ
過払い金請求では、時効が成立していなくても、取り戻せる金額が減ってしまったり、過払い金を取り戻せなくなってしまう場合があります。
金融機関は損をしたくないですし、交渉の経験も豊富なため、ご自身にとって不都合な点を突いてきます。
そこで、この記事の締め括りとして、交渉を少しでも有利にするためのコツをご紹介します。
なるべく多く取り戻したいなら裁判も検討
この記事でご説明した「消滅時効」にかかるかどうかや「一連の取引」と認められるかどうかは、過払い金の金額に大きく影響します。
当然、金融機関とは激しい争いになることが多いポイントになります。
裁判も辞さない覚悟で過払い金を請求する必要があります。
また、裁判をすると、過払い金だけでなく、「過払い金に対する利息」も認められる可能性があり、より多くの金額を取り戻せる場合があります。
過払い金の時効が心配なら専門家に相談
時効や一連取引の認否についてご自身の主張を認めてもらい、より多くの過払い金を取り戻すには、金融機関に対して徹底的に争う準備が必要です。
ご自身で請求する場合は、かけられる労力には限界がありますし、内容の特殊さを考えると、経験も不十分と言わざるをえません。
専門家に依頼すると費用はかかってしまいますが、トータルで考えると専門家に依頼した方が得なケースも多いため、少なくとも一度ご相談されることをお薦めします。
過払い金の請求で悩まれたときは、専門家の力を借りるのが早期解決の近道です。
中央事務所では、過払い金の知識と実績が豊富な専門家が、あなたのお悩みをしっかりとお聞きします。
ご相談時にお話しをよく伺った上で、あなたの状況にあった解決方法をご提案させていただきます。
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本記事の監修/
司法書士法人 中央事務所 司法書士 伊藤竜郎
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借金、過払い金請求のことでお悩み、お困りの方、ぜひお気軽に中央事務所にご相談ください。
投稿日:2023年4月30日
更新日:2024年3月29日