任意整理とは?借金整理の全体像とメリット・デメリットを解説

「任意整理」「借金整理(債務整理)」などによって借金の負担が減らせると聞いたことがあるかもしれません。

返済額が大きく生活に負担となっている方には重要な手続きとなりますが、それぞれに特徴があるので、ご事情に合わせた方法を選ぶことが重要です。

また、借金の返済に困っている方は、過去に高すぎる金利でお金を借りていた結果、貸金業者から払いすぎた利息である「過払い金」を取り戻せる場合もあります。

この記事では、「任意整理」や「過払い金」について解説していきます。

借金整理(債務整理)の種類

借金整理(債務整理)には、4種類の整理方法があります。

  • 任意整理
  • 特定調停
  • 個人版民事再生(個人再生)
  • 自己破産

まずは、それぞれの特徴を見ていきましょう。

金融庁のホームページでも概略が説明されていますので、ご参照ください。

https://www.fsa.go.jp/policy/kashikin/manual/03.pdf

任意整理とは、裁判(訴訟)をせずに借金を整理する方法

お金を借りた場合、貸した人はお金を返してもらう権利があるので「債権者」・借りた人はお金を返す義務があるので「債務者」と言います。

借金を整理する際に、債務者と争いごとになってしまうケースも多数あります。

そのため、裁判所に中立ちしてもらって解決する方法があります。

このように裁判所を通して借金の問題を解決する方法は「法的整理」と呼ばれます。

対して任意整理は、裁判所を通さない借金整理であることから「私的整理」とも呼ばれます。

債権者と返済条件を協議して、返済計画を作り、計画に従って借金を返済することになります。

任意整理は、法的整理に比べて手続きが簡素という特徴があります。

特定調停とは、裁判所が選んだ「調停委員」に利害を調整してもらう方法

特定調停とは、簡易裁判所に「調停委員」を選任してもらい、返済条件や返済計画を作り、計画に従って借金を返済することで借金の問題を解決する方法です。

手続きは「特定調停法」にのっとって進められます。

特定調停法は平成12年に施行された法律で、比較的新しい手続きです。

特定調停では調停委員が利害関係を調整する性質もあり、借金をしている全ての貸金業者の合意を得る必要があります。

また、返済計画には強制力があるため、返済が滞ってしまった場合は、給与を差し押さえられる可能性もあります。

個人版民事再生(個人再生)とは、返済計画を裁判所に認可してもらう方法

特定調停においては、返済条件や返済計画に債権者との合意が必要でした。

簡易裁判所が選んだ調停委員が仲介をしてくれても、合意が得られない可能性もあります。

個人版民事再生(個人再生)では、債務者が法律で定められた一定額以上の債務を支払う計画を立て、裁判所が債務者の意見を聞いた上で、返済計画を裁判所が認可します。

債務者は裁判所の決めた返済計画に従う必要があります。多重債務の場合、返済条件や返済計画に全ての債権者からの同意を取り付けるのは難しい面もあります。そのような場合は、債権者ではなく裁判所が認可を与える個人再生という方法が適していることもあります。

自己破産は、借金の返済義務から解放してもらう方法

  • 任意整理
  • 特定調停
  • 個人再生

これらは、返済条件を見直して返済計画を立て、それに従い借金の返済を続ける方法です。

対して自己破産は、債務を返済する必要がなくなるため、借金の返済をする必要もなくなります。

その一方で、最低限の生活資材をのぞいて住宅などの財産を失ったり、士業に就いている場合は欠格事由に該当することで職業上必要な資格の登録が削除されてしまい、仕事が一時的にできなくなってしまうなどの影響もあります。

借金整理と関係の深い「過払い金」とは

借金の整理において過払い金を取り戻せると、返済が大変楽になる可能性もあります。

では、過払い金がどういうお金か見てみましょう。

過払い金が発生する仕組みとは?

過払い金は、一言で言うと、「法律で決められた上限以上に、貸金業者に支払ってしまった利息」です。

消費者金融やクレジットカード会社からお金を借りると、利息が発生します。

利息の金額を決めるのが金利ですが、金利には法律で上限が設定されています。

金利の上限を定めた法律は二つありますが、2010年までは以下のように定められていました。

  • 利息制限法・・・金利の上限は、年15〜20%
  • 出資法  ・・・金利の上限は、年29.2%

加えて、利息制限法上は、上限を超えた金利でお金を貸しても、貸金業者に罰則がありませんでした。

金利が高いと儲けが大きくなるため、貸金業者は高い金利でお金を貸そうとしますが、罰則のない利息制限法は金利の歯止めにはなりにくかったのです。

その結果、貸金業者は貸出金利を「利息制限法を超え、出資法以下」とすることが多くありました。このような金利は、利息制限法の違反になりますが、出資法の違反にはならないことから「グレーゾーン金利」と呼ばれ社会問題となっています。

2006年に最高裁が「グレーゾーン金利でとった利息は無効」という判決を出し、グレーゾーン金利で支払った利息の返還を請求できるようになりました。

このお金は、貸金業者に対して払いすぎたお金というような意味となるため、「過払い金」と呼ばれています。

過払い金を取り戻せる条件

借金の返済にお困りの方で過払い金が発生している方は多いものの、誰でも取り戻せるわけではありません。

過払い金を請求できる可能性があるのは、次のような方です。

2010年6月17日以前にお金を借りた場合

グレーゾーン金利でお金を借りている可能性があるのは、2010年6月17日以前にお金を借りた方となります。

2010年6月18日以降は出資法が改正され、出資法の上限金利が29.2%から20%に引き下げられました。それ以降の契約はグレーゾーン金利とはならず、過払い金は発生しないため、請求もできません。

最終取引から10年が超過していない借金

過払い金が発生していても、最終取引から10年を超過していると、過払い金を請求する権利は時効となり、過払い金を請求できなくなってしまう可能性があります。

ただし、他の取引との関係で時効が伸びる場合もあります。

ご自身の時効について詳しく知りたい方は、司法書士などの無料相談を受けてみるといいでしょう。

過払い金を取り戻す流れ

過払い金を取り戻すには、いくつかのステップがあり、借金整理と並行して過払い金請求を進める場合には、過払い金請求の手続きも進める必要があります。

過払い金を取り戻すまでの流れは次のようなものです。

  • 取引履歴
  • 過払い金の計算
  • 貸金業者に対する請求
  • 貸金業者との交渉

Step1:取引履歴の請求

取引履歴は、過払い金の計算の根拠となるものです。貸金業者にインターネットや電話・郵送などで請求すると、数週間〜数ヶ月程度で取得できます。

Step2:過払い金の計算

過払い金を請求するには、過払い金の金額を計算しなければいけません。

過払い金の計算は複雑なため、Excelなどの表計算ソフトや専用のツールを使って計算することになります。

計算の手順はこのようになります。

  • 取引履歴に基づいて、返済状況を表計算ソフトに入力する
  • 契約上の利息、残借金の金額を計算する
  • 法律上返さなければいけない上限金額を計算して、契約上の返済額と差し引く

Step3:貸金業者に対して過払い金を請求する

いよいよ貸金業者との交渉が始まります。

主に、

  • 和解(示談交渉)
  • 訴訟の提起

という二つの方法があります。

Step4:過払い金の返金を受ける

貸金業者との交渉が完了したら、過払い金が支払われます。

任意整理・借金整理(債務整理)と過払い金の関係

過払い金の請求はご自身でも可能ですが、司法書士事務所などに依頼した方が早く、多くの金額を取り戻せる場合があります。

また、借金整理(債務整理)においても、ご自身だけでできる手続きと、専門家が必要な手続きがあります。

借金整理には、裁判外の手続きと、裁判所が関与する手続きがある

任意整理・特定調停・個人再生の特徴は、返済条件・返済計画を作って、新しい条件で借金の完済を目指すことになります。

また、返済条件・返済計画について、次のような違いがあります。

  • 任意整理は、裁判所は関わらず、債権者と話し合って、返済条件・返済計画を決める
  • 特定調停は、調停委員に仲介してもらって、債権者と返済条件・返済計画を決める
  • 個人再生では、裁判所の認可が必要(ただし、裁判所から債権者にヒアリングを行う)

借金整理と過払い金請求の手続きを合わせていく

過払い金の返還交渉にも、裁判所が関わる方法・関わらない方法があります。

  • 示談交渉:裁判所は関わらず、貸金業者との話し合いで返還金額を決める
  • 訴訟の提起:貸金業者と返済条件を裁判で争う

借金整理(債務整理)と過払い金の返還交渉は並行して進めることが多いため、借金整理と過払い金の返還交渉の方法も合わせていくことが自然です。

つまり、借金整理と過払い金の請求を並行して進める場合、次のように進めることが多いでしょう。

  • 裁判外で、借金の任意整理と過払い金の示談交渉を行う
  • 交渉に合意できなければ、裁判所に関わってもらいながら、借金整理(特定調停・個人再生・自己破産)と過払い金の返還金額を決めていく

ただし、過払い金の返金を目指す場合、特定調停・個人再生・自己破産では返金を受けられない可能性もあるので、可能であれば専門家に相談した上で借金整理の手続きを選ぶと良いでしょう。

任意整理や、他の借金整理(債務整理)のメリット・デメリット

借金整理の手続きの特徴や、過払い金の請求についてご説明しましたので、次に借金整理の方法のメリット・デメリットをみていきましょう。

全ての手続きに共通する特徴

全ての手続きに共通するメリット・デメリットはどんなものがあるかみていきましょう。

全ての手続きに共通するメリット

債務者が司法書士などに債務整理手続きを依頼した場合、そこから債権者に手続きの開始を通知します。これが「受任通知」と呼ばれるものです。

全ての手続きに共通するメリットは、受任通知によって取り立てが止まるという点です。

受任通知がなされた場合、貸金業者やその委託を受けたものは、正当な理由がない限りは取り立てができなくなるように貸金業法に定められています。

全ての手続きに共通するデメリット

全ての手続きに共通するデメリットは、ブラックリストに載ってしまうという点です。

任意整理の場合は5年間、個人再生・自己破産の場合は7年間、信用情報機関に事故情報が登録され、新たな借金・ご自身の名義でのクレジットカード作成が難しくなってしまいます。

任意整理のメリット・デメリット

まずは、裁判外の借金整理の方法である「任意再生」のメリット・デメリットを見ていきます。

任意整理のメリット

任意整理のメリットは次の通りです。

返済条件・返済計画を見直すため、返済が楽になる

毎月返済できる金額に対して借金の金額が大きく、返済の負担が重すぎる方もいます。

任意整理によって借金の返済が軽くなることで、生活への負担を減らせます。

過払い金を取り戻せる可能性がある

任意整理と並行して過払い金の返還交渉も行います。交渉の結果によっては、過払い金が取り戻せる可能性があります。

任意の借入先(債権者)と協議できる

任意整理では、どの債権者と返済条件・返済計画を見直すかを選べます。従って、住宅や自動車などの維持したい財産がある場合は、交渉の対象から外すことで、その財産を維持できる可能性があります。

任意整理のデメリット

任意整理は、あくまで当事者間の任意の話し合いです。話し合いに応じない貸金業者とは借金整理が進まない可能性もあります。

特定調停のメリット・デメリット

任意整理では裁判所は交渉に関与しませんが、特定調停は、裁判所が選んだ調停委員に仲介してもらって借金を整理する手続きです。

特定調停のメリット

特定調停のメリットは次の通りです。

法律の専門家に依頼する必要がないので、報酬の出費を抑えられる

特定調停では、調停委員が債務者・債権者双方の意見を調整します。従って、弁護士・司法書士の費用を払えない場合には特定調停が向いています。

強制執行を停止できることも

借金の返済ができない場合に、債権者が給料を差し押さえたり、不動産を競売にかけるなど、財産を処分してくる場合があります。これが強制執行と呼ばれるものです。

特定調停には、強制執行を停止させる制度があるため、返済計画を守っている限りは給与などの差し押さえから逃れられます。

東京都の場合の強制執行の停止手続きは、こちらをご参照ください。(https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/kyousei/index.html

特定調停のデメリット

特定調停は費用が安く済む一方で、必ずしも他の方法よりも有利になるとは限りません。

過払い金の請求は受けられない

特定調停は、過払い金の回収を目的としたものではありません。

本来は、返金される過払い金も含めて返済計画を立てたいものですが、特定調停では過払い金は回収できず、法定上限金利の範囲で減額された借金の返済計画を作ることになります。

調停が成立しない場合がある

特定調停では、裁判所の役割は債権者・債務者、双方の意見の調整です。

債権者が返済計画に同意してくれない場合は調停が成立せず、そもそもの目的である借金の整理ができない(または相手を合意させるために不利な条件で調停を成立せざるを得ない)場合があります。

返済計画が守れないと、強制執行を行われる可能性がある

特定調停によって作られる返済計画が守れない場合、債権者には給与の差し押さえなどの強制執行が行なわれます。

給与・預金などを差し押さえられてしまう可能性があります。

個人再生のメリット・デメリット

個人再生は、返済条件や返済計画を裁判所が認可する制度です。メリット・デメリットを見ていきましょう。

個人再生のメリット

個人再生が採用されるのは、多重債務で借金整理となった後も住宅を維持したい場合などのケースです。

借金が大幅に減額される可能性がある

個人再生では、原則として3年間で一定の金額を返済する計画を立てます。裁判所がこの計画を認めた場合は、残りの債務が免除されます。

債権者の同意がなくても成立する

個人再生を通じて作られる返済条件・返済計画には、債権者が同意していなくても裁判所の認可で成立します。

協議をしても合意できない・調停委員が意見を調整しても合意に至らない場合は、個人再生の手続きが適していると言えるでしょう。

持ち家を失わずに借金を整理できる場合がある

民法では、「住宅資金貸付債権に関する特則」という名前のルールがあり、マイホームを処分せずに借金を整理できるようになっています。

この「住宅資金貸付債権に関する特則」は「住宅ローン特別条項」とも呼ばれることがありますが、以下のリンクが参考になります。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000225#Mp-Ch_10

個人再生のデメリット

個人再生には大きなメリットがありますが、利用の制限や手間がかかるといったデメリットもあります。

利用できる方に制限がある

個人再生とは、継続的に収入が見込める方に対して借金の返済を続けてもらう制度です。

制度を利用できるのは、給与などの定期的な収入が見込める方に限定されます。

官報に名前が載ってしまう

官報は、国が国民に対して情報を伝える刊行物です。

一般的には官報を見る方は少ないとは思いますが、個人再生の手続きをすると、官報に住所・氏名が掲載されてしまいます

手続きが煩雑なため、費用・時間がかかる

個人再生は、全ての債権者に対して手続きを行います(前述の通り、住宅ローンは除くことができる場合があります)。それもあって借金整理の中で手続きが最も複雑で、費用や時間がかかります

自己破産のメリット・デメリット


自己破産は、他の借金整理の手続きとは異なり、返済を終了させる手続きです。

自己破産によって生活にどのような影響が出るかは、最高裁判所のパンフレットにも説明があるので参考にしてください。

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/201701.leaf-jikohasan.pdf

自己破産のメリット

自己破産のメリットは次の通りです。

免責の許可が下りれば、借金からすぐに解放される

自己破産の手続きにより、裁判所から免責の許可が下りると、破産した方は債務の支払い義務を免責されます。つまり、借金を払わなくて良くなります。

給与などの差し押さえが止まる

自己破産によって債務の返済義務がなくなると、給与などの差し押さえもなくなります。

自己破産のデメリット

自己破産をすると、財産を失うなどのデメリットがあります。

生活上必要なものをのぞき、財産を失う

破産手続き開始決定の時点で持っている財産は、日用品・一定額の現金などの生活に必要なものを除いて処分されます

破産手続き開始決定後に手に入れた財産は処分の対象にはなりません。

保険外交員や警備員など、一定の仕事に就くことができなくなる

自己破産の手続き中は、保険外交員や警備員などの仕事に就けなくなります。

ただし、免責許可が下りて資格制限が解除されると、これらの仕事に再び就けるようになります。

任意整理が向いているケースとは

借金整理は、次のような特徴があることをご説明しました。

  • メリットは、受任通知によって取り立てが止まる
  • デメリットは、ブラックリストに載ってしまう可能性がある

また、借金整理の一形態である任意整理は、「当事者間の任意の話し合い」という点でした。

従って、このような条件に当てはまる方は、任意整理を念頭に借金整理を進めることが良いでしょう。

  • 返済の督促に困っている
  • 過払い金の金額が大きく、過払い金を取り戻せれば借金を完済できる見込みがある

その他の場合でも任意整理が向いているケースもありますので、どのような方法で借金整理を進めるかは専門家に相談することをお勧めします。

過払い金請求のお悩みは、中央事務所にご相談ください

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中央事務所では、過払い金や借金の知識と実績が豊富な専門家が、お悩みをしっかりとお聞きします。

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本記事の監修/司法書士法人 中央事務所 司法書士 伊藤 竜郎

中央事務所はお客さまのお悩みに寄り添い、常にお客さまの目線に立ってアドバイス、解決するためのお手伝いをさせていただきます。 借金、過払い金請求のことでお悩み、お困りの方、ぜひお気軽に中央事務所にご相談ください。

伊藤 竜郎
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